2023年11月29日

今朝のNHKニュースで「“人質司法”の実態 無実の罪で勾留中に失われた命」という記事を放送していた。

↓この事件にまつわるトピックだ。

www.nhk.jp

最高裁判所のまとめでは、2021年初公判までに保釈が認められた割合は、自白事件が26.3%なのに対し、否認事件は12.2%で、否認事件のほうが勾留が長い傾向にあるという。

昔からのことだが、日本の司法は自白偏重の傾向にある。言うなれば、自白が取れるまで拘束され続けることになるのだ。

こうした検察の態度に与しているのが裁判所だ。

このひどい冤罪事件でも、罪証隠滅のおそれがあると検察官の主張を入れ、裁判所は繰り返し保釈請求を却下している。被疑者の一人である相嶋さんは、体調を崩しガンの診断を受けたにもかかわらず、それでも保釈は認められなかったのだ。勾留執行停止によってようやく拘束を解かれ入院することができたが、ときすでに遅し。濡れ衣を着せられたまま、ガンで亡くなってしまうのだ。

勾留中衰弱していく相嶋さんの様子に、奥様が「(嘘の)自白するしか手立てはないかも」と追い詰められる話には、胸がつぶれる思いがした。人質司法にはこういう致命的な問題点がある。自白して一転裁判では無罪を主張という話を聞くと、なんで嘘の自白なんてするんだと思われる人は少なくないだろうが、最初から罪ありき自白ありきの取り調べでは(たとえ無罪かもしれなくても)罪を認めるまで拘束され続けるという大きな問題が立ちはだかっているのだ。

www3.nhk.or.jp

 

これとは別に、もう一つ興味を引かれたのが朝日の朝刊の記事。

www.asahi.com

先般成立した「LGBT理解増進法」は骨抜きも同然だと批判されたが、当事者の一人としては「成功」と見るべきところもあるという。

つまりこれまで議論の俎上にも乗らなかったものが、きちんと取り上げられたのはうれしいというのだ。しかも国会という場で。

国会というメインストリームの議論に乗ったことがやはり良かった。『性的指向』や、『性自認』とも訳せる『ジェンダーアイデンティティー』が議事録に残る。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど、これまで『unspeakable(口に出せない)』な存在だったLGBTQが、権利主体として歴史に刻まれた。これは大きなことです。

これは当事者にしかわからない視点だ。

「ウルトラ骨抜きにされて最悪だった」けど、国会に提出すらされないよりはるかにマシだというのだ。2年前の「理解増進法」は提出にすら至らなかったのだから。抗議自殺も頭をかすめたというのだから、当事者の絶望は如何許りだったろうか。

このウルトラ骨抜き最悪法案を、廃案にすべきかも悩んだという。

だけど審議の過程で、『性的指向』『ジェンダーアイデンティティー』という言葉を、みなさんどんどん口にするようになった。あれは痛快でしたね。あれこれいちゃもんをつけて修正を重ね、自分たちに都合のいい法律にしたと思っているかもしれないけど、あなたいったい何回『ジェンダーアイデンティティー』って、『性的指向』って言いました?あんなに嫌悪してたのに、あらら?自ら土俵にあがったんですねって。この感じ、何て言ったらいいかなあ……

────「ざまあみろ」ですかね。

これまで議論のテーブルにすらつかなかった保守的な人たちも、議論に加わらざるを得なかったというわけだ。確かにこれまで認識すらされてこなかったのだ。取るに足らないものと思われてきたのだ。それが話し合いの議題として取り上げられたのは大きな一歩といえる。閉じられた扉に片足だけでも突っ込むことができればしめたものだ。

藤井さんは、口にするのは思ってるより大きなことだという。口にするうちに、その人の中の差別や偏見が解けて、いつの間にかなくなっているのが理想だと。

廃案にするとかしないとかは、実は小さなことのような気がして。それよりも成立までの過程に一喜一憂したり、日常会話に出てきたり、そういう力の方が大きいと思います。法律ができたことで、『性的指向』も『ジェンダー』も堂々と口にできる。ここからです。『私たちはここにいる。歴史はもう戻らない、抵抗しても無駄だよ』って

差別の怖さは『悪い人』だからするわけじゃない点にあるという。大好きな学校の先生が揶揄する、大好きなお母さんが『気持ち悪い』と言う。いい人とか温かい人たちの振る舞いのなかに差別や偏見が温存されているのだと。だからこそ『LGBT差別は許されない』と首相や閣僚が国会で答弁する影響力は大きいのだと。

当事者じゃないと見えないことは多いもんだなと改めて思った。想像だけじゃ限界がある。だからこそ当事者の話にまずは真摯に耳を傾けることが大事なのだ。