子どもの絵をコテンパンに叩きのめすヤバい本『よい絵 よくない絵事典』 | オモコロブロス!
が面白すぎたので、実物を図書館で取り寄せてみた。
まず驚いたのが、北川民次の言葉を引用してるページが多いこと。
論に関連する言葉が、文中ではなく、各所に散りばめられているのだ。警句的に。
たとえば「写実的傾向の芽生え」(21ページ)のところに、
真の写生とは、視覚だけによる自然の模写ではない。
《北 川 民 次》
という言葉があったりする。
それもそのはず、『よい絵 よくない絵事典』をつくったのは「創造美育協会愛知支部」というところだが、北川民次はその創造美育協会の発起人の一人でもあるのだ。奥付を見ると、創造美育協会愛知支部の会員としても名を連ねていることがわかる。
彼自身がこの本に携わっていたかは不明だが、彼の思想がベースにあるのは間違いないところだ。
なんせこんな言葉もある。
日本の児童画はうまい。しかし画の表現が何となく不機嫌だ。不機嫌な画の表情は意識してできたものではなく、よい絵をかこうと努力すればするほど、知らず知らずににじみでたものだ。
《北 川 民 次》
殊にコンクールに対する批判は強く「日本の児童画のよくない傾向」とやらが列記され、よい絵 よくない絵として「実例」の絵が比べられている。
- 形や色はていねいに描いてあるが動きがない。
- 外見的説明に気を遣っているが感情が死んでいる。
- 多彩であっても調和がない。
- デフォルメ(形のゆがみ)に必然性がない。
- 年齢不相応に達者な技術。
- 不自然、不必要な混色をしている。
- 硬筆材料と水彩絵の具というように、子ども自身の発想によらない材料の併用。
- 巧みに子どもらしさを粧っている。
- 図柄は楽しそうで無邪気に描いているが造形的でない。
- 描かれている事物にアクセントがない。
- られつ的、従って感情がうごいていない。
- おとな好みのテクニックが目立つ。
- たんねんに描きこんであるがよく見ると投げやりである。
- 機械的に描いてあるので、同じ型のくりかえしが多い。
- 不必要までに混色したりぬり重ねをしているために色が濁り、息苦しいほど。(追求力と思い違いする)
- 硬質材料、ペン、水絵の具を併用したり、時には画面をけずったりというように、子どもの発想ではない技巧をこらしている。
- 淡い同色系で味をだしているが、個々の事物はあいまいである。
- 人間のポーズは硬直し、表情がない。
- 子どもの絵としては見る人の意表をつくが、おとなの絵の模倣である。
批判の実例としては、
この子どもの指導者は、自分の教え子が、これほど巧みに自分の画風をのみこんだ絵を描いたことに、さぞ満足のことでしょう。
とかいう感じだ。
評価の内容はさておき、けなすにせよほめるにせよ、その表現の多彩さに感心してしまった。
もちろん、今ではトンデモの類として扱われるべき本だけど、当時これを書いた人たちは美術教育に貢献するべく、真剣に取り組んで作っていたに違いないのだ。