2023年10月2日

朝刊で次の記事を読んだ。

www.asahi.com

名称変更は、そこに内包される歴史や文化と「決別する」という強い意志を示す行為です。

筆者の上田教授はロシアの古都「サンクトペテルブルク」の例を引き、ロシア革命後にレニングラードに改称されたのが、ソ連崩壊後にまたサンクトペテルブルクに戻された経緯は「共産主義との決別」を表しているという。

一方で名前を変えたからといって、そこに帰属する人たちの意識まで変わるとは限らないという。例えばサイゴンサイゴン陥落後ホーチミンに変わったけれど、地元ではサイゴン呼びする人もいるという。慣れ親しんだ呼称を惰性で使ってるという側面もあるだろうが、名称そのものがアイデンティティを形成している場合もある。

ジャニー氏の存在に直接触れ、敬愛していた人々にとって、ジャニー氏、そしてジャニーズという名前との真の決別は簡単ではないでしょう。終戦とともに天皇陛下は神ではなく人間だったと突きつけられた人たちの感覚に近いかもしれない。社名の喪失とともに、自分たちのアイデンティティーはどうなるのかという問いにぶつかるのです。

にしても例に出されるのが「天皇陛下=神」なのかあ……と。

自分自身も「神」にたとえてブコメしたことがあったけど、

木村拓哉、会見直後の”ジャニーズイズム”投稿が波紋「3人の会見が台無し」「推しだったけどこれはひいた」:中日スポーツ・東京中日スポーツ

所属タレントはひたすら哀れだなあと思う。こうなったからったっていきなり宗旨替えもできないでしょう。ずっとその世界で生きて神様を信じてきたんだから。邪神でも神は神だし。私らに彼らの気持ちはわからないよ。

2023/09/08 17:27

b.hatena.ne.jp

ジャニー喜多川という男は、所属タレントや社員のみならず、芸能界各方面で「神にも等しい存在」だったのだなあと改めて実感する。

ジャニーズとか所属タレントには露ほどの興味もなかったけれど、ジャニー喜多川の性加害疑惑には長年注視していて、彼の死で明らかになることは多いだろうなとずっと前から思っていた。「神」を失った後は急速に弱体化していくだろうなというのも。きちんと露呈するのがこんなに遅くなるとは思わなかったし、まさかこんなに酷い実態とは予想だにしなかったけれど。予想より弱体化のスピードも遅かった。歯が抜けるようにぽろぽろ退所が増えてったけど、まだまだメディアへの「神の御威光」は効きまくってたわけだから。

上田先生はインタビューの言葉をこう〆られているが、

新しい名前がなじんでいくにも相当な時間がかかるでしょう。心に大きな傷が残らないよう、タレントたち、そしてファンたちのケアをしていくことが重要ではないでしょうか。

タレントはともかく「ファンたち」というのは厄介だなあと。善良なファンはいいけれど、狂信的なファンたち(もともとファンは狂ったという意味合いも含むけれど)もそれなりに存在しているようなので……。

 

同じ紙面の真ん中ぶち抜きに、凸版印刷の社名変更が広告されていたのが興味深かった。

https://www.holdings.toppan.com/ja/ad-lp/

https://www.holdings.toppan.com/ja/news/2023/10/newsrelease231002_1.html

もともと『すべてを突破する。TOPPA!!!TOPPAN』キャンペーンを展開して、社名変更の布石は打ってたわけだけど、それでも「凸版印刷」というブランド名を捨てるのは大きな決断が必要だったことだろう。これも「印刷の会社」というイメージとの訣別を表しているといえる。

にしても「とっぱん」という音は残るわけで、一般人的にはそれほど大きな変更には見えない。松下電器パナソニックに変わったほどのインパクトだろう。一般人にもそして多くの社員にも違和感なく受け入れられる社名変更かなと思う。かつて頻発した銀行・保険業界の再編にともなう社名変更に比べたら、なきに等しい変更かもしれない。こだわりがある人を除いては「アイデンティティーの喪失」までいかないような感じもする。

topics.smt.docomo.ne.jp

 

アイデンティティーの喪失という面でいえば、法律婚にともなう姓の変更の方がよほどインパクトがある。これこそ、上田教授のいう“内包される歴史や文化と「決別する」”ことを強いられるものだ。変わるのは姓だけで名前は変わらないじゃないか、名前の方が大事だろ?というふざけた主張をする輩も多いけど、ずっと姓+名のセットで過ごしてきたわけでそう簡単に分けられるものではない。「姓」は単なる記号ではなく、実家で過ごした歴史や文化も詰まっているのだ。そういう主張をする人に限って、自分の姓が変わることは想定も想像もしないのだから度し難い。お前もいっぺん変えてみろってんだ。

うちは夫が自分の方が変えてもいいと言ったけど、その話をちょっと出したら、夫の両親が激怒して納得も得られそうになかったので、仕方なく折れることになった。強行突破するよりは自分が変えた方が後々面倒がない、そこまでしてするようなことでもない、という自分の判断なので後悔はしていない。

が。そこで、妻姓で同姓にすることもできるんだから機会は平等!とかいう主張をする人たちには煮えくりかえる思いになる。慣習的に、夫姓に合わせることにはなんのハードルもないのに、妻姓に合わせるとなった途端揉め出す事態になるのはなんでだ?という恨み節。まあ昔と比べれば妻姓婚も増えてきている印象はあるけど。それでも相変わらず妻姓婚=婿養子と勘違いする人たちも多い。

我が国では女性が変更する(あるいは実質的に強いられる)ことが大勢の割に、そのルールを変えられるのは実質男性(国会議員)に委ねられているというところが大きな問題だ。ほとんどの男性議員には関係のない話だし、女性議員も旧姓での活動で困ってない人も多いのでなかなか議論が進まない。選択的夫婦別姓、いつになったら実現するのだろう。人生の半分を夫の姓で過ごしてきた自分はもう変えるつもりはないけど、これから結婚するカップルには選べるようになってほしい。

 

ジャニーズの社名変更については、報道によると公募案というのも出ているが、こうなると「ジャニーズ」や「J」をもじったり一部を入れたりというのは避けられないはずだ。アイデンティティーの喪失という点からすると、一部だけでも残したいという気持ちがどうしても出てしまうからだ。

でも新しい社名を作れるんだからいいよね。こっちは選びようがないもん。なんというか、結婚にともなう姓の変更って、吸収合併されちゃった会社みたいな感じかも。「相手の家の名前」に飲み込まれてしまうというのが。たかだか姓の変更かもしれんけど、夫姓に合わせるという価値観は、男の家(夫)>女の家(妻)という従来のパワーバランスを確認する側面も見え隠れする。そんなん考えすぎじゃね?という男は、ぜひ妻姓結婚をしてみてほしいものだ。

さてジャニーズの方は、続報による「Smile Up」とやらになるのかどうか?

 

追記:なるほど。ジャニーズ事務所は解体。性被害者への補償業務を担う会社が「SMILE-UP.」ということになったのか。タレントのマネジメントなどを担当する新エージェント会社の社名は公募で決めると。「ジャニーズ」を冠するグループ名は変更ということで、グループとそのファンにとってはこれが一番の痛手なのかもしれない。